論理の匠 vol.2
~大阪高等学校・北村恭崇先生~
生徒の注意を引きつけ続ける、視聴率先生の劇場型授業とは? (7)

大阪高校先生座談会
- 岩本信久先生(副校長)
- 山本至宏先生(教頭)
- 北村恭崇先生(国語科主任)
- 池田靖章先生(社会科)
- 上田裕加子先生(保健体育科)
全校で「論理」に取り組む
――『論理エンジン』全校導入にあたっての経緯を教えていただけませんか。
岩本 大阪高校では、今のところこの教材(『論理エンジン』)がベストだと認識しているのですが、紆余曲折は当然ながらありましたね。当初、この『論理エンジン』と出会った時、国語力をつける突破口になりはしないかと思いました。模擬試験の点数が上がった、偏差値が上がったという形でコマーシャルが打たれていましたが、それは正直なところ、良し悪しがあると思います。子どもたちの実態でいうと、あくまでも国語の力をどうつけるかが主眼であって、結果としての模試の成績ですから。そのため大阪高校流にこの教材をどう導入していったらいいか、また他の先生方にどう理解をしてもらったらいいかということで悩みました。
そこで最初はサークル活動として取り組みました。全体で一気に取り組むのではなく、金額のこともありますから、放課後に自主参加という形で、保護者の方に「こういう活動がしたいので、ぜひ参加させてほしい」と訴え、子どもたちにも「ぜひ参加してみよう」と呼びかけました。結果、学年を超えて70人ほどの子どもたちが集まりました。
最初は私と北村のコンビで、きちんと時間を確保してやっていこうとしたのですが、会議などが入り、うまくいかない時もあり、「放課後でやるのは限界がある。授業できちんとやるのであればできるのに」と感じました。
クラブ活動に参加している子どもたちの事も考え、1回目は3時半から、2回目は7時から、それぞれ90分授業で行いました。しんどかったけれど、子どもたちも喜んで来てくれました。まだまだやリ方は工夫しなければいけない部分はありましたが、これを導入してもよさそうだな、と感じました。

もともと、大阪高校に来る子どもたちをどう3年間で育てるかと考えたときに、「基礎学力を高めないといけない」という結論がありました。それぞれ教科ごとに強化ポイントを探りましたが、共通して先生方から言われたのが、教科書の読み取りも含め、まず日本語力の欠如を何とかしなければいけないということだったのです。
そこで前校長から職員会議を通じて、『論理エンジン』の導入を報告願いました。国語科だけでまかなうのではなく、「全教師でアタックをかけるぞ、基本的にはホームルーム担任が担当する」ということで出発しました。目論見としては、当然ながら第一目標として子どもたちの成長がありますが、第二の目標として、授業者である教師の力をどうコミットさせていくかということもありました。
現在、一定の方法はシステム化できているのですが、他教科や、新たに入ってくる先生方に対するケアについて、まだ改善点はあると考えています。それについては、今回の水王舎さんのHPをはじめとするアフターフォローの取り組みも合わせて考えていきたいと思います。

他の先生方にしつこく言っているのは、担任として『論理エンジン』をやりながら、子どもの成長を見てくれということです。例えば、文章を書かせるにしても、『論理エンジン』の前と後では文章力が変わってくるのを見てもらいたい。また、国語以外の教科を教える場合でも、「主語・述語を含めた文章理解の促進をしている」という共通の思いで子どもたちを見ていくことができれば、基礎学力は格段に上がると思っています。
最初の段階では、「きちんとやりなさい」という徹底が大事だと思っています。徹底できなくなると、やはりダメですね。他校の話を聞いても、予習をきちんとさせないと意味がない。そこの部分の力の入れ具合でずいぶん変わってくるなという感じがします。
そんな状況です。今年はもう1回、国語科で引き受けることにしました。全国の優れた実践を参考にしながら、大高流の取組みをもう一度考える機会にするつもりです。
――教科横断的な『論理エンジン』を中心におくことで、他教科の先生から「こういう生徒がいるけれど、どう答えたらいいのか」と相談があったりといった、御校の中で雰囲気の変化はありますか。

北村今回、体育の先生にも持ってもらいました。新任の女性の先生ですが、何回も私のところに来て、「これはどうなんだろう」「これをどう教えているか」「生徒からこう返ってきたけれど、どう返答したらいいか」という、これまで体育という教科ではされていなかったことをされています。
もう一つ、感覚的な面で、うちの生徒の学力的なところは、体育をされていると、すぐには把握しにくいかと思いますが、『論理エンジン』をやっておられる中で、そのあたりも、早くつかめているのではないかという感じがします。
――大変でしょうが、素晴らしい試みですね。
岩本 そういった部分が大事だと思いますし、そのため余裕を持ちながらいきたいのですが、この『論理エンジン』も「1年後にはこうさせたい、2年後にはこうさせたい」という目標に基づいた様々な取り組みの中の一つですので、担当教員は大変だと思います。
――他教科のお二人の先生、1年間『論理エンジン』をされてみていかがですか?

池田靖章先生(社会) 生徒のスキルよりも、教師のスキルの方が磨かれたかなと思います。いろいろ自分の中でも足りないところがあって、それを埋めていけるところが私にとってもありがたいし、それをどうにか教えてあげたいという思いもあるので、そこでなんとか指導法や教授法を学べたかと思います。

上田裕加子先生(体育) 正直、すごく抵抗がありました。「国語は教えられない」という気持ちで取り掛かっていたのが生徒にも伝わったのか、「先生、体育やし、わからへんやろ」と言われました。それが悔しくて、いつも調べていくようにしています。自分流ですが、本文にラインを引かせたり、指示語の「これ」はどれを指しているのか、矢印を引かせるということをしつつ、解説していました。
――ありがとうございます。先生がスキルアップすれば、それは確実にある一つのクラスの40人に波及する。学校としては一つの正しい戦略ですね。
山本 今、生徒が昔の3倍も来てくれる学校になったのですが、かつては選んでもらえない学校になってしまった経験を持っています。その原因を、「伸ばしてやることができなかったからだ」と私たちは受け止めました。「こういう子になってほしい」と思ってやるのではなく、「現実の子がこうだから」と、それに合わせてやっていたところがあったのです。
そして力を伸ばすには、3年後の姿を想定して指導することがカギになることに気づいたのです。そこで、『論理エンジン』が活用できないかという話になりました。
――一つの理想像、目標値から演繹して、具体的にどういう段階を踏ませればいいのかというお話ですね。
山本 進路指導の経験から、国語の力は、一番最後に育ってくる気がします。表現を変えると、その子が持っている文化が増えない限り伸びてはいかない、“文化相対”のような傾向がある気がします。
それを増やしていけるかを考えることを抜きにして、出口の進路だけ、何とか合格させようとしても不可能だと思うのです。環境問題を対策論や原因論だけで語るのではなく、我々人間はどういう存在なのかという方へ掘り下げていける子を増やしたいですね。それが出来てくれば、小論文も突破できるようになると思いますので。
――本当にその通りですね。生徒数が3倍に増えた要因はどんなところにあるのでしょうか?

山本 いろいろあるのではないでしょうか。一つではないと思います。私たちは8年前にもう一度、学校を作り直そうということで、“ホップ”、“ステップ”、“ジャンプ”というプランを考えました。
1年目は“ホップ”としての「できる」です。「やればできる」という自信をもう一度与えない限り、この子たちは自分の勉強に対するイメージを変えてくれません。なぜなら、高校受験に失敗した経験を持つ子が多いからです。「関関同立を目指しましょう」とか、「センター試験を目指しましょう」という目標をリアルな夢として持ってもらうためには、まず「できる」という経験がないと無理だろうと。
1年目「できる」に挑戦した次の年は、「できる」だけでいいのか、本当に「わかる」とはどういう状態なのか、という“ステップ”という段階に行かせ、少し負荷をかけていきます。そうすれば3段階目の“ジャンプ”「伸びる」が達成されるのではないかと考えました。
はじめは残念ながら、「できる」の段階で踏みとどまっている子どもが多くいました。次の「わかる」へ行こうと思っても、『論理エンジン』的な思考力や、答えを自分で見つけ出していく力がなかったら、単に答えを暗記する力だけでは育っていかないものがあるでしょう。
そこへどの教科も踏み込んでいかなければいけないと考えた時に、冒険だったのですが、「『論理エンジン』ですべての教科にまたがろう」となったわけです。

このように、必ずしも生徒が来てくれなかった時代もありましたが、「伸ばす」ことに視点を置き直すことによって、我々教師が本来やりたいことができるという喜びも取り戻しました。逆に言えば、そういう経験を経たからこそ、生徒が自信を持ってもう一度目標に挑戦できるような学校に、今なれたのだと思います。
