論理の匠 vol.5
~志桜塾代表 長谷 剛先生~
最強のプロ国語教師は、平成の吉田松陰だった
- 第4部 平成の松下村塾へ-
志桜塾にかける夢
長谷 でも、自分の中では別に何が変わるわけでもなく、あえて変わったなら、公務員という老後の安定した生活がなくなったぐらいです。
―― 不安はありませんでしたか?
長谷 正直、生徒が来てくれるかなって。なんぼ普通の塾の半額とは言え、やっぱりお金を今度はいただくわけですから。妻の方が冷静で、「最初は小さくやって、数名から初めて、3年ぐらいを見越してちゃんと黒字になればいいんじゃない」みたいな感じで。
―― ふたを開けてみると、生徒さん、たくさん来ましたね。
長谷 結果的には来てくれて、今もだんだん増えてるんですけど、最初やっぱり、失敗したなあと。
―― そうですか。
長谷 やっぱりやれているのは、本当に、皆さんが助けてくださるからです。
毎日のように差し入れを持ってきてくださる保護者さんとか。
―― 何かそういう徳って持ってますよね、長谷先生って。
長谷 でも、最初、みんな怖いって言いますよ(笑)。

―― 最後の質問です。先生がこの塾で成し遂げたいことは何でしょうか?
長谷 子供たちがやりたいことをやれるような環境が、この島根にあることが大事だと思います。そのための機会を与えられれば……。
―― そうですね。志さえあれば、この塾に来ることによって、欲しかったものが得られるわけなのですね。
長谷 ここに来てくれれば、みんなが集い、志の高い生徒がいるから、たまに低くなったときに、みんなに感化されて、“普通”のレベルを高めてほしい。
―― ああ、そういう意味でもありますね。北高生中心、しかも教え子さん中心だと、ハイレベル集団なわけじゃないですか。それに引きずられて、他校から来ている生徒もブラッシュアップされるんですね。
長谷 すると上がるんですよ。“普通”が違うので。
生徒の心を一瞬で変えてしまう匠の技はまさにサイコドクター。いや、マジシャンと表現すべきなのでしょうか。
授業が終わって生徒が去った後に感じた“祭のあと”のような激しい虚脱感は、目から鱗が落ちすぎた驚きのせいでしょう、記者にとって初めての経験でした。
ただ成績の良い子どもを作るだけではなく、理想の教育者でありたいという、長谷先生の姿勢は、インタビューにこそ書きませんでしたが、震災の被害者の方に対する思いや、「深山の桜」として、目立たず人知れぬところで、プロの国語教師として、教え子たちが夢と志を実現する際の本当の支えになりたい、と繰り返すその言霊から、幾たびも垣間見えた次第です。
志桜塾……開塾わずか2ヶ月で80名ほどの生徒を集めた、地方の一国語私塾ですが、お世辞抜きでこの中から、ひょっとすると将来の島根県、そして日本を背負って立つ子どもたちが生れてくる予感がひしひしとしています。
最強のプロ国語教師は、熱い志に燃える平成の吉田松陰になるのでは……、授業の余韻の中でそんな予感がよぎった、松江の夜でした。

